東京の観光タクシーについて思うこと




「東京観光タクシー」とは、タクシードライバーが観光案内をしながら観光名所を巡るもので、これまで一部のタクシー会社による独自のサービスとして運行されてきました。

そこで、2012年には、東京の観光振興の一環として、観光にかかわる有識者・機関・団体・タクシー業界で構成する「東京観光タクシー推進協議会」が設置され、「東京観光タクシードライバー認定制度」が創設されました。

この制度の発足は、個々のタクシー会社やタクシードライバーにおいても、「これまでタクシーを利用しなかった新たな顧客層」の取り込みや「タクシーで東京観光を行うという新たなニーズ」掘り起こしの起爆剤として期待されましたが、残念ながら運行実績は低調であると言わざるを得ません。

また、会社やドライバーによって、観光タクシー制度への取り組みに温度差がある事も、運行実績が伸び悩んでいる要因になっているかもしれません。

そこで、このページでは、東京の観光タクシーの現状と課題について、私なりの考えをお話ししたいと思います。

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東京観光タクシーの概要

東京観光タクシーとは、タクシーを時間単位での貸し切りとして、顧客が希望する観光名所を巡り、観光タクシードライバーの認定を受けた運転手がガイドを行うという制度です。

利用方法

事前に観光タクシーを取り扱っているタクシー会社に連絡をして予約を行う。連絡の方法は「電話」「メール」「HPの申し込みフォーム」など、タクシー会社によって異なる。予約可能時間もタクシー会社によって異なる。

東京観光タクシーの料金(セダンタイプタクシーの場合)

  • 3時間コース:14,950円(運賃13,090円+ガイド料金1,860円)
  • 4時間コース:19,790円(運賃17,310円+ガイド料金2,480円)
  • 5時間コース:24,630円(運賃21,530円+ガイド料金3,100円)
  • 6時間コース:29,470円(運賃25,750円+ガイド料金3,720円)

利用可能人数

  • 1人〜4人(セダンタイプタクシーの場合)

顧客のメリット(バスと比べた場合)

  • 自分達の行きたい場所に行くことができる。
  • 他の旅行者に気兼ねなく楽しむことができる。
  • 出発場所・到着場所を駅・ホテルなど自分達の都合の良い場所に指定できる。
  • 荷物をタクシーのトランクに入れたまま観光が出来る。

顧客のデメリット(バスと比べた場合)

  • 自分達で行く場合を決めなければならない。
  • はとバスの東京半日コース(4時間50分 5,700円)スカイバスの二日券(3,500円)より割高である。
  • 別途、入館料・入園料・駐車場の料金などがかかる。
  • バスよりも車窓が低いので景色が見え難い場合がある。
  • ガイドの内容が期待を下回る可能性がある。

観光タクシードライバーの資格認定について

東京観光タクシー推進協議会会は、次の試験合格や協会が主催する研修を受講したタクシードライバーを、東京観光タクシードライバーとして認定しています。

東京シティガイド検定

日本国内外から東京を訪れる旅行者に対して観光案内を出来る人材を育成する目的に、公益財団法人 東京観光財団が主催している検定です。

東京都の自然、歴史、政治・経済、産業、生活文化、芸術等から50問、そして観光関連の一般常識から20問出題されて、70点以上が合格となります。

ユニバーサルドライバー研修

ユニバーサルデザインタクシーとは、障害の有無にかかわらず、すべての人にとって使いやすいようにはじめから意図してつくられたタクシーのことです。

健康な方はもちろんのこと、足腰の弱い高齢者、 車いす使用者、ベビーカー利用の親子連れ、妊娠中の方など、誰もが利用しやすいタクシーのことを言います。

ユニバーサルドライバー研修では、高齢者や障害者などが持っているさまざまなニーズや特性の理解、お客様との円滑なコミュニケーション方法などを学びます。

観光タクシードライバー研修

専用のテキスト・DVD を使い、観光タクシードライバーに必要な基本的サービスや知識、言葉づかいや身だしなみなどを、講義・ロールプレイングで学ぶ研修です。

タクシー会社の取り組み状況

2012年の東京観光タクシードライバー認定制度発足後に認定された観光タクシードライバー数は約1,000人です。この数字は東京都のタクシードライバー数約64,000人の1.5%に過ぎません。

また、東京観光タクシーの実績は、これまでのところ、業界全体で繁忙期にはひと月に300組程度(1日10組)、閑散期にはひと月に150組程度(1日5組)と言われています。

決して順調とは言えない数字ですが、これは観光タクシーの実績が、観光タクシーに積極的に取り組んでいる限られたタクシー会社に集中していることにも原因があると思われます。

具体的には、自社のホームページで積極的に営業活動を行っているのは、大手では「日本交通」「国際自動車」「日の丸自動車」また制度発足以前から独自にサービスを展開していた「すばる交通」「日立自動車交通」などに限られています。

大手や準大手でも、全く観光タクシーのサービスに触れていない会社や、メニューには載せているけれども積極的にはおすすめしていない会社があります。

東京観光タクシーの問題点

私個人の意見ですが、「東京観光タクシー」という制度をビジネスとして成功させたいのであれば、その進め方に少々問題があるかなと思っています。

タクシー業界が新しいプロジェクトを立ち上げる事に慣れていないかもしれません。

また、画一的なサービスを提供する運輸業という業種には、マーケティングという概念が馴染まないのかももしれません。

具体的には次のとおりです。

市場調査の不足

「東京観光タクシードライバー認定制度」ありきでスタートされたからでしょうか、十分な市場調査が行われなかったような気がします。

少なくとも私には、顧客のニーズが見えてきません。

ニーズが無いのにサービスを提供しても市場に受け入れられるはずがありません。東京都の深夜バスが良い例です。

マーケティングの不足

もしもニーズがあり、それを個社レベルで把握できているのであれば、顧客のニーズを満足させるという視点で、申し込み窓口の多様化、曜日や時間帯別の料金設定(ニーズが高い曜日や時間は料金を高くする)、戦略的な価格設定(一般営業が苦戦する土日の午前中は「3時間1万円ポッキリ」等)も可能なはずです。

そういう発想が無いのは、ニーズの把握やマーケティングができていないからだとと思うしかありません。(※マーケティングとはまず顧客ありきでその顧客が満足するサービスを提供するということです。業界や企業が作ったサービスの押し売りでは事業は成功しません。)

メディアへの露出不足

積極的に営業をしたいのであれば、広告の出稿等(紙・映像・WEB・PPC広告など全ての媒体)メディアへの露出が不足しているように思えます。当然個別会社が収益性を勘案して独自の広告を行うべきで、個別会社のWEBサイトだけでは不十分です。また広告出稿への反応を測定すれば、事後的にニーズの把握も可能です。

個別会社の組織体制の問題

上記のマーケティングにも関係しているのですが、市場のニーズが把握できていれば、個別のタクシー会社も先行投資が必要なはずです。

顧客を満足させるという視点で、観光タクシー制度の企画、PR、顧客からの受付・相談、乗務員手配、マニュアル作成、乗務員教育などの専門部署の設置や人員の配置、相当の費用が必須です。

個別のタクシー会社が「東京観光タクシー」のサービスを始めると言いながら専門の組織を立ち上げられないのは、全く市場の分析を行っていないか、収益確保の見込みが無いからだと思います。

タクシードライバー教育の問題

「東京観光タクシー」サービスの営業を積極的に行うためには、それ相応の数の観光タクシードライバー有資格者を確保しなければなりません。

(毎日、1日に10組の観光タクシーを運行するためには、勤務シフトの関係から、安定的に30人の有資格者が必要。そもそも1日に10組程度の運行で収益性が確保できるかどうかは疑問だが。)

高品質なサービスの提供をしたいのであれば、知識の習得はドライバーまかせではなく、タクシー会社が主体的に行う必要があります。

教育時間確保の問題

会社による研修は必須なのですが、タクシードライバーは労働基準法の制限ギリギリまで働く前提で勤務シフトが組まれているので、一昼夜勤務した「明け」のや「公休日」に会社主催の研修を行うことは、労働基準法違反の問題をはらんでいます。

先行投資としてドライバーの教育を行うのであれば、乗務時間に代えて研修を行い、その時間分の給与は保障するという発想の転換も必要です。

業界一律に行う必要は無いのでは?

「観光タクシーサービス」への投資や維持管理には規模の利益が働くので、タクシー会社は相当数の車両を保有していないと収益性の確保は困難だと思います。

現在のところタクシー業界を挙げてサービスを展開したいと考えているようですが、収益性を確保できない会社が事業に取り組まないのは当然の事です。

もしも採算を度外視してでも制度を維持したいのであれば、制度の趣旨に賛同する会社だけで取り組むことで十分だと思います。

ドライバーの意識の問題

タクシードライバーは、この制度に関して次のようなネガティブな意識を持っています。

  1. 東京シティガイド検定合格程度の知識だけでは、ガイド料金を受け取るレベルの業務を行うのは困難である。
  2. 会社はドライバーに対して自主勉強会の開催を要求するだけで、会社が主体的に営業や制度に取り組む姿勢が見えない。
  3. レベルアップには個人としての勉強も必要だが、運行機会が少なく明確な収入増加への道筋も示されていない観光タクシー業務は、時間とコストをかけてまで取り組む価値が無い。
  4. 観光タクシー運行の約2時間前からは一般営業を行うことはできないので、観光タクシー運行による売上げは決して魅力的とは言えない。
  5. 会社は乗客からのクレームは常に運転手の対応に起因していると考えているので、クレームが入るリスクが高い観光タクシー業務には魅力を感じない。

今後の東京観光タクシーの展開

上記で否定的なお話しばかりをしてしまいましたが、この「東京観光タクシー」というサービスは、現時点では全く全国に浸透していない新規の事業です。

潜在的な顧客は、日本全国だけでなく世界中に存在するので、もしかするととても大きな可能性を秘めたビジネスになるかもしれません。

一方で、一度悪イメージを与えてしまうと、今の社会ではSNS等ですぐに拡散・定着してしまい、それを払拭するのは容易ではありません。

そのため、本当に「東京観光タクシー」というサービスを展開・成功したいのであれば、まず第一に顧客のニーズを把握すること、次に顧客のニーズを満足させるという視点で、大手のタクシー会社(日本交通・国際自動車)や、この事業を推進したい中小の会社(すばる交通・日立自動車交通等)が、高品質のサービスを提供できる体制をしっかり整備することです。

その上で、上手に広告・広報活動を展開すれば、「これまでタクシーを利用しなかった新たな顧客層」の開拓や、「タクシーを使った東京観光という新たなニーズ」の掘り起こしができるかもしれません。

成功の鍵は「市場の把握」と「少数精鋭」にあるかと思っています。

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