タクシードライバーは運転のプロと言われています。
職業ドライバーなので、運転が上手だと思われているのでしょう。
ところが、タクシーの交通事故は頻繁に起こっているのです。
タクシーの車両が100台以上ある会社や営業所では、毎日とは言わないまでも1週間に2〜3件というペースで交通事故が発生しています。その原因は、タクシーが自家用車や営業車とは異なる動きをしなければならないこと、それから、新人のタクシードライバーはこれまではなかった心理状態に晒されることにあります。
ですから、タクシードライバーの仕事を始めると、これまで自家用車や営業車では全く交通事故とは無縁だった方でも、事故を起こす可能性が高くなります。つまり、自動車の運転に自信がある方や、実際に運転が上手な方でも事故を起こすかもしれないということです。
タクシードライバーにとって、交通事故は仕事を失うことに繋がる可能性もあります。特に仕事を始めたばかりの新人タクシードライバーは、地理に不慣れなこともあり、事故を起こす危険性が高まってしまいます。
そこでこのページでは、新人タクシードライバーが実際に起こした事故の例とその原因についてご紹介します。これからタクシードライバーを目指そうとする方や新人のタクシードライバーの人は、ぜひこのページに書かれていることに注意をして、ぜひ新人の厳しい時期を乗り切って頂きたいと願っています。
目次
新人ドライバーに多い交通事故
お客様を見つけた時に起きる交通事故
新人のタクシードライバーが、片側二車線の道路を走っているとします。
そして、このタクシーはこの先の交差点を右折したいので右側の車線にいます。
交差点まであと100メートルという距離に差し掛かった時に、
左側の歩道で手を上げているお客様
を見つけました。
この場合、車線変更が可能な道路であれば、次のような動作を行います。
- まずはルームミラーとサイドミラーと目視で左側車線に自動車やバイク・自転車がいない事を確認して左側の車線に移動。
- さらにもう一度後方と左側の安全を確認して、路肩に車を寄せてお客様の前で停車。
ところが、タクシードライバーの仕事を始めたばかりの頃は、この一連の安全確認の動作ができません。頭では安全確認をしなければいけないと分かっているのですが、お客様を見つけると反射的に左側に寄っていってしまうのです。
このことは、普段の運転では100%安全確認が出来ているドライバーでも同じで、お客様を見つけただけで体が反応してしまい左側に寄っていきます。私も、しばらくはこの安全確認が出来ませんでした。
科学的な根拠は無いのですが、「お客様を見つけたらお乗せしないといけない」と言う意識が、安全確認という動作を打ち消しているのでしょうか。そのため、新人ドライバーがお客様を見つけた時に、左側にいる自動車やバイク・自転車と接触するという事故が頻発しています。
私は幸いにも事故を起こすことが無く、仕事を始めて6ヶ月を過ぎた頃に突然安全確認が出来るようになりました。この時期は、少し道を覚えてきて、ほんの少しだけ余裕らしきものが出てきた頃と重なります。今では、お客様を見つけると、何も考えていないのに反射的に左後方を見て安全確認をしています。
新人ドライバーの方は、普段から車線変更の時には必ず左右の後方確認を行うことを励行して、少しでも早くお客様を見つけた時にも安全確認が出来るように心がけてほしいと思います。
ドアを開けるときに起きる事故
さて、無事にお客様の前にタクシーを停めた後も危険は続きます。
ドアを開ける前には、必ず左後方に自転車やバイクがいないことを確認するのですが、新人の時にはこれも出来ません。
お客様の前で停車すると、右手が勝手動いてドアを開けてしまうのです。
ここで、開けたドアに自転車やバイクが接触するという事故が頻発しています。
自転車は、車とガードレールの間がどんなに狭くても、何も考えずにすり抜けていこうとします。前に停車しているのがタクシーだとかお客様が乗車しようとしていることなど見ていません。ましてドアが開くかもしれないなどとは思ってもいません。
ですから、ドアを開ける前には、必ず左後方の安全確認をしてからドアを開けるようにして下さい。
お客様をお乗せした後に起きる事故
無事にお客様をお乗せした新人ドライバーは、「ご乗車ありがとうございます。どちらまで参りましょうか?」と行き先を尋ねますが、まだ行き先を言われても知らない場所ばかりです。
そのため、行き先を言われた段階で、もう頭の中では行き先と経路のことがグルクルと回って、安全確認の事など頭から消えてしまいます。
そして、右側後方の安全確認を行わずに車を発進させてしまい、右側を走っている自動車・バイク・自転車と接触するという事故が発生しています。
この、車を発進させる時に右側後方を確認するという動作も、ドライバーの気持ちに余裕が生まれて来るまでは出来ません。朝の点呼で安全確認の事を何度も言われて、お客様をお乗せするまでは頭で分かっていても、お客様をお乗せすると出来ないのです。
この場合にも、車を発進させる時には反射的に後方確認が行えるように、普段から後方確認の意識を持って運転することが大切です。
横断歩道上の事故
新人のタクシードライバーにとって、行き先の場所と経路が分からないことはとても大きな弱点です。
車を走らせてはいるものの、常に頭の中では行き先の場所と経路のことが渦を巻いています。常に大きな考え事をしながら運転をしているようなものなので、このことは他の場面にも影響してきます。
特に多いのは、交差点を右左折する時に横断歩道上の自転車や歩行者と接触する事故です。
自動車が右左折しながら横断歩道を横切る時には、死角となる右側後方や左側後方を特に注意しなければいけないのですが、この確認が疎かになり事故が起きています。場合によっては、目の前にいる人や自転車に気が付かないこともあるほどです。
このような事故は、地理に詳しくなるにつれて減ってくるのですが、やはり普段から左右の安全確認を行うクセを付けることが大切です。
脇見運転による追突事故
行き先や経路に不安があると、脇見運転による追突事故も起きています。
脇見運転にもいろいろな原因があるのですが、新人のタクシードライバーに多いのは、ナビを操作したり地図を見たりして起きる事故です。運転中に行き先や経路に不安になると、ナビをジッと見つめてしまい追突事故を起こすことがあります。
車が停止している時にナビを操作していて、知らず知らずのうちにブレーキが緩んで追突するという事故も起きています。ナビの操作や地図を見るときには、車をしっかりと停止させる事が大切です。
目的地に近づいた時に起こる事故
お客様の目的地が、「〇〇交差点」のような場合には、その目的地の2つ前の交差点までに、目的地の交差点の何処に車を停めるのか、右左折をするのかを確認することが大切です。
その理由は、お客様の答えによって、目的地まで走る車線が変わってくるからです。
その確認を行わないと、目的地である交差点の直前で
「ここを右に曲がって!」
「ここを左に曲がって!」
「ここで停めて!」
と言われます。
これは新人ドライバーに限らないのですが、お客様にそのように言われると、身体が勝手に反応をしてしまうのです。
そして、後方の安全確認をせずに車線変更をしてしまい事故が起きています。
お客様が降車される時に起こる事故
お客様を無事に目的地までお送りして、運賃の精算を済ませてからドアを開けます。
この時には、お客様をお乗せする時と同じように、必ず左側後方の安全確認をしなければならないのですが、これを怠って開けたドアに自転車やバイクが接触する事故が頻発しています。
事故を防ぐ方法
事故の原因は地理がわからない不安感
これまでお話しをした事例でお分かりのとおり、新人のタクシードライバーが起こす事故の原因は、ほとんどが安全確認の不履行です。
でも、どうして安全確認ができていないのかというと、安全運転に関する知識やスキルが不足しているというよりは、新人ドライバーの心理状況、特に道路や経路に関する知識の不足による不安心理が影響していると思っています。
では、どうすればこのような新人ドライバーの地理に関する不安感を軽減できるでしょうか。
ひとつの方法は、新人ドライバーは全て自分で解決しようと思わない事でしょうか。道がわからない時には、最初からお客様に助けて頂こうと思って仕事に取り組むしかありません。そして道を早く覚えてしまう事。どの会社でも、「新人で地理に不案内なので、道を案内して頂けないでしょうか?」という話法を指導されると思うので、3ヶ月から6ヶ月位、そしてその後でも道がわからない時にはこの話法を使ってもいいと思います。
というのも、最初の1ヶ月位はこの話法を使っていても、だんだんとお客様からいろいろ言われたり恥ずかしくなったりして、この話法を使わなくなってしまうからです。私の場合は、仕事を始めた頃にはほとんど道が分からなかったので、お客様に道を教わるしかありませんでした。確かに辛いこともありましたが、目的地の場所や経路に関する不安が無くなるにつれて、安全運転に集中する事が出来るようになりました。
ただし、今でも普段走り慣れていないエリアや、始めて行った場所で運転をしている時には、目的地の場所や経路に関する不安感に意識を奪われて、安全確認が疎かになっている自覚があります。
このことからも、新人ドライバーによる交通事故を防ぐためには、常に安全確認を行うことを意識させるだけで無く、場所や経路に関する不安が無くなるように、出来るだけ早く都内の地理に詳しくなることが重要だと考えています。